「値段で負け続けています」と書いたら、受注が決まった

「値段で負け続けています」と書いたら、受注が決まった

相見積もりで、値段で負ける。悔しいので次は安く出す。すると今度は「この金額で本当に大丈夫ですか」と疑われる。安くしても負ける。この繰り返しに入っている会社は、けっこう多いと思います。

先日、ある製造業のサイトをつくり直す仕事が決まりました。工場で使う型をつくっている会社です。こちらの見積は、他社が出すと想定される金額より3割ほど安いものでした。普通なら疑われる金額です。それでも決まりました。

何をしたか。メールの1行目に「値段で負け続けています」と書きました。

今日はこの話を書きます。

  1. 安い見積は、黙って出すと疑われる
  2. 私が書いた3つのこと
  3. なぜ、弱みを先に出すと通るのか
  4. 紹介してくれる人には、説明しやすい材料を渡す
  5. 今日からできる一歩

安い見積は、黙って出すと疑われる

当時、私は値段で連続して失注していました。正直、焦っていました。

その状態で、他社より3割安い金額を出す。相手の立場で考えてみてください。「なぜこの会社はこんなに安いのか」。浮かぶ答えは2つです。ひとつは「安くできる工夫がある」。もうひとつは「手を抜くつもりだ」。

黙って安い金額だけ出すと、相手は後者で考えます。これは相手が疑い深いからではありません。理由が書いていないからです。人は、説明のない安さを警戒します。スーパーで極端に安い肉を見たときと同じです。

私が書いた3つのこと

1.「このところ、値段で負け続けています」

いちばん言いたくないことを先に書きました。かっこ悪い話です。でもこれを書くと、次の金額の説明が「言い訳」ではなく「事情」として読まれます。

2.「安くできる理由は、作り方を変えたからです」

ここは具体的に書きました。1つのサイトに4〜5人を入れていたのを、2〜3人に減らしました。毎回ゼロから考えていた作業を型にはめました。下作業はAIにやらせるようにしました。

「効率化しました」とは書きません。何人が何人になったのかを書きます。桁が出ないと、人は信じません。

3.「品質は変わりません。作り方を変えただけです」

最後は言い切りました。「変わらないと思います」ではありません。「変わりません」です。ここで濁すと、1と2がすべて無駄になります。

なぜ、弱みを先に出すと通るのか

相手がいちばん怖いのは、安い金額そのものではありません。あとで何かが出てくることです。追加費用、手抜き、途中で音信不通。だから相手は「この会社は何を隠しているか」を探しています。

こちらが先に、いちばん都合の悪いことを出す。すると相手の探す作業が終わります。隠しごとを探す相手から、一緒に考える相手に変わります。

この案件では、相手の担当者の方から「正直に言ってくれたのがすごく嬉しい」という反応をいただきました。安い金額への不信ではなく、共感になった瞬間です。

紹介してくれる人には、説明しやすい材料を渡す

もうひとつ、この案件でやったことがあります。紹介してくれた人が社内で説明しやすい形にして渡したことです。

理由を5つ並べませんでした。2つに絞りました。人数を減らしたこと、型にはめたこと。この2つだけです。

紹介者は、私の代わりに社内で説明してくれる人です。その人が覚えられない説明を渡しても、伝わりません。2つなら覚えられます。5つは無理です。結果として、このメールは1か月後の打ち合わせまで材料として使われ続けました。

変える前と、変えた後

  • 安い金額だけを出す → 負けている事実を先に出す
  • 「効率化しました」と書く → 「4〜5人を2〜3人にしました」と書く
  • 「品質は落ちないと思います」 → 「品質は変わりません」
  • 理由を5つ並べる → 理由を2つに絞る

今日からできる一歩

次に見積を出すとき、金額の前に1行だけ足してください。

この金額にできる理由は、◯◯を◯◯に変えたからです。品質は変わりません。

◯◯には、必ず数字を入れてください。人数、工程の数、日数。何でもいいですが、桁を出します。「安いですが大丈夫です」は、何の説明にもなっていません。

そして、いちばん都合の悪いことを1つ、自分から先に言ってみてください。負けが続いていること。人手が足りないこと。得意でない分野があること。隠しても、相手はいずれ気づきます。先に言えば材料になり、あとで出れば裏切りになります。同じ事実です。順番だけが違います。

道具が終わるとき、困るのは機能ではない。たまったデータのほうだ

道具が終わるとき、困るのは機能ではない。たまったデータのほうだ

使っていた道具が、ある日サービスを終える。中小企業でも、もう珍しい話ではありません。

そのとき多くの会社が最初に考えるのは「次はどれにするか」です。機能を並べて、価格を比べて、デモを見る。

先日公開された、ある会社の移行事例を読んで、順番が違うなと思いました。

7年使った社内SNSが、終わった

システム開発を手がけるALH株式会社(東証プライム上場・SHIFTのグループ会社)が、社内の情報基盤を入れ替えました。対象は全国の拠点や客先に常駐する社員を含めて、約2,200ユーザーです。

きっかけは、約7年使ってきた「Workplace from Meta」が2025年8月末で通常利用を終了したこと。自分たちの都合ではなく、提供側の都合で終わりが決まりました。

移行先に選ばれたのが、社内SNSと社内ポータルを兼ねる「Zoho Connect」と、ビジネスチャットの「Zoho Cliq」でした。

効いたのは、機能比較ではなかった

この会社は2024年の秋から約10社の製品を調べ、そのうち3製品をデモ環境で比較しています。1年近くかけている。

ただ、決め手として挙げられているのは華やかな機能ではありません。

ひとつは、使い慣れた環境に近い操作性。客先に常駐している社員が、説明なしでも触れること。

もうひとつが、たまったデータを持ち出して、そのまま移せることでした。

そしてもうひとつ、社内SNSとポータルが別々に分かれていた「情報の入口」を1か所にまとめられること。この3つです。

1,000万件を1か月。自社で作れば3か月と数百万円

データ移行には、Zohoが提供している専用ツールを使いました。

約1,000万件のデータを、約1か月で移し終えています。

ALHはもともと、移行ツールを自分たちで開発することも考えていました。その場合、約3か月の開発期間と数百万円規模の投資が必要になると見積もっていたそうです。専用ツールがあったおかげで、その両方を使わずに済みました。

ここは読み飛ばしやすいところですが、大事な点です。移行費用は、新しい道具の月額には書かれていません。見積書に出てこないコストほど、あとで効いてきます。

一斉研修は、やっていない

2,200人が使う仕組みを入れ替えて、全社員向けの研修は実施しなかったと書かれています。

やったのは、移行のスケジュールと「これからどう使っていくか」の道筋を案内すること。それだけで、社員が自分で使い始めたそうです。

操作感が近いものを選んだ、という最初の判断がここで効いています。研修を削ったのではなく、研修が要らない選び方をしていた、という順番です。

移行後は、社内からの問い合わせに答えるまでの期間が、従来の数日からおおむね1日に短くなったとのことです。


ただし、これは中堅・大企業の事例です

正直に書いておきます。2,200人と1,000万件は、中小企業の数字ではありません。リリース自身も「中堅・大企業における活用例」と書いています。

同じことをやれば同じ結果になる、という話ではない。

それでも参考になるのは、確認すべきことの順番のほうです。

道具を選ぶ前に、3つだけ確かめる

今お使いのクラウドサービスについて、次の3つを確かめてみてください。

1. 自社のデータを、まとめて取り出せるか。管理画面に書き出し(エクスポート)の機能があるか。あるとして、何が出せて何が出せないか。投稿は出せるけれどコメントは出せない、という作りは珍しくありません。

2. 乗り換え先に、移行の道具が用意されているか。これは乗り換え先を選ぶときの話です。「データを移せます」と言われたら、誰が移すのかを聞く。自社で作るのか、向こうが用意しているのか。ここで数か月と数百万円が動きます。

3. 社内の「情報の入口」がいくつあるか。連絡はチャット、資料は別のフォルダ、お知らせはまた別の場所。入口が増えるほど、移行のときに引っ越し先が増えます。

3番目は、終了の話がなくても今日から効きます。

今日からできる一歩

紙を1枚出して、社内で使っているクラウドサービスの名前を、思いつくだけ書いてください。

そのうち「明日サービスが終わると言われたら、本気で困るもの」に丸をつける。

丸がついたサービスだけでいい。管理画面を開いて、データの書き出しができるかを見てください。

できるなら、安心していい。できないなら、それは道具の問題ではなく、これから起きる引っ越しの見積額の話です。


出典:PR TIMES/ゾーホージャパン株式会社「SHIFTグループのALH、約2,200ユーザーの社内情報基盤をZoho ConnectとZoho Cliqへ刷新」(2026年9月29日)
プレスリリースを読む

測っても判断が変わらないなら、その数字は要りません

測っても判断が変わらないなら、その数字は要りません

先日、ある社長からメールをいただきました。小売店向けに商品を卸している、通販のサイトを持っている会社です。

相談はこうでした。

「広告のうち、どちらが効いているのか分からない。会員登録したお客様が、どの広告から来たのかを自動で記録する仕組みを入れたい。見積を取ったら、広告の月額と同じくらいの金額になった。これはやるべきか」

数字で判断したい、という姿勢は正しいです。私はこの社長を尊敬しています。 ご自身で分析まで踏み込む社長は、そう多くありません。

それでも私は、「今はやらないほうがいい」と答えました。金額が高いからではありません。

私が聞いたのは、ひとつだけ

返信で、質問をひとつしました。

「その広告の成績が低いと分かったら、何をされますか」

社長の答えは、はっきりしていました。その広告を減らして、別の広告に予算を移す。理由は3つ。

  1. 別の広告の獲得単価が上がってきている
  2. 今すぐ買いたいお客様を、他社に取られている懸念がある
  3. 主力とは別の事業が落ちていて、投資先を絞る必要がある

読んですぐ分かりました。この3つは、どれも「広告の成績」と関係がありません。

成績が高くても低くても、この社長は予算を移します。つまり、測っても判断は変わらない。

その瞬間、仕組みを作る費用が丸ごと不要だと確定しました。

数字が要るのは、「決め方が数字で変わるとき」だけ

私たちは、数字があれば正しく決められると思い込んでいます。

違います。先に決め方が決まっていないと、数字は使えません。

順番はこうです。

  1. 何を決めたいのか
  2. どういう数字が出たら、A。どういう数字が出たら、B
  3. その数字は、いくらで手に入るか
  4. 3が高すぎるなら、そもそもその決め方をやめる

多くの場合、1と2を飛ばして3から始めます。だから、集めた数字が使われないまま残ります。

社長室のパソコンに、誰も見ていない管理画面がありませんか。私の会社にもありました。

紙に2行、書くだけです

やり方は簡単です。会議の前でも、見積を取る前でもいい。紙に2行書くだけです。

・この数字が目安より上だったら、私は___する
・この数字が目安より下だったら、私は___する

2行の___が同じ言葉になったら、その数字は要りません。測る必要がありません。

これは、うちの会社でも使っています。新しい道具を入れるか迷ったとき、広告を止めるか迷ったとき、外注先を変えるか迷ったとき。2行書くのに3分かかりません。

もうひとつ。その前提、本当ですか

この相談には続きがあります。

社長は「登録から1か月を過ぎたお客様は、ほとんど買わない」という前提で話をされていました。だから早く広告を絞りたい、と。

私の手元の数字は違いました。登録から7日以内に初めて買う方が46.4%、30日以内で69.6%。つまり、30.4%は30日を過ぎてから初めて買っています。 3人に1人弱です。

ここで「間違っています」とは言いませんでした。断定すると、人は守りに入ります。

代わりに、こう書きました。「私の手元の数字と実感が違うので、一度確かめてみていただけますか」

社長はご自身で確認され、すぐに返信をくださいました。「1年を過ぎるとほとんど買わない」を、「1か月」と見間違えていたとのことでした。

自分で気づいて、自分で直す。いちばん強い直り方です。

もし私が「それは違います」と押していたら、たぶん話は長引いていました。

順番だけ、入れ替えた

最後にもう一つ。この社長は、こういう順番を考えていました。

  1. 広告を絞る
  2. お客様を育てるメールを始める
  3. サイトの中身を増やす

私は、1番と2番を入れ替えることを提案しました。

理由は単純です。その広告は、会員登録の3〜4割を生んでいます。 先に絞ると、育てるメールを送る相手が減ります。すると、2番の効果が出たのか出ていないのか、分からなくなります。

先に2番を1〜2か月動かす。30日を過ぎてからの購入が伸びるかを見る。それから1番を決める。

お金は一円もかかりません。順番を入れ替えただけです。

今日からできる一歩

いま、調べようとしていること・測ろうとしていることを1つ思い浮かべてください。

紙に2行書いてください。

・上だったら、私は___する
・下だったら、私は___する

同じ言葉になったら、やめてください。そのお金と時間は、別のことに使えます。

1ページで売るのは、1つの商品だけ

1ページで売るのは、1つの商品だけ

先日、ある機械メーカーさんのホームページの打ち合わせに出ていました。

新しいトップページの案を見ていただいたときに、ブランドを見ている責任者の方から、鋭い指摘がありました。

「ここ、2つの製品の特徴が混ざっています。これだと誤解されます」

図星でした。私たちが作った案は、「Aができます」「Bもできます」「Cにも対応します」と並べていたのです。A・B・Cは、それぞれ別の製品の得意技でした。

作り手は「全部見せたい」、読み手は「自分の話か」しか見ていない

作る側の気持ちは、よく分かります。せっかく強みがいくつもあるのだから、全部見せたい。どれかが刺さるかもしれない。

でも、読み手はそう読みません。

読み手が知りたいのは一つだけです。「これは、自分の困りごとを解いてくれるものか」。

複数の製品の特徴が混ざったページを読むと、読み手の頭の中では一つの商品にまとまってしまいます。実際は別々の製品なのに、ひとつの万能商品だと思われるのです。

混ぜると、何が起きるか

問い合わせは増えることがあります。ただし、噛み合わない問い合わせです。

  • 「御社のこの機能、うちのこの用途に使えますか」と聞かれる。ところが、それは別の製品の機能
  • 説明の電話をすると「あ、そういうことですか」で終わる
  • 見積まで進んでも、途中で前提が違うと分かる

この対応は、全部こちらの持ち出しです。社員5人、10人の会社で、こういう問い合わせが週に2件あったら、それだけで半日が消えます。

しかも、断るときに相手に嫌な思いをさせます。ホームページを読んで期待して連絡してくれた人に、「それはできません」と言うのは、こちらもつらい。

間違った期待を持たせたのは、こちらのページです。

数を減らすのが怖い、という壁

ここで多くの社長が止まります。「載せるものを減らしたら、問い合わせが減るのでは」

私も同じ心配をします。だから、減らすのではなく分けると考えてください。

1ページで売るのは1つ。もう一方は、小さな入口だけ置いて、専用のページに送る。なくすのではなく、置き場所を変えるだけです。

今回の打ち合わせでも、この形に決めました。

  1. トップページの説明は、主力の製品1つに寄せる
  2. もう一方の製品は、小さな案内から専用ページへ送る
  3. 専用ページでは、その製品の話だけを思いきり書く

「思いきり書く」ができるのは、分けたからです。混ぜていると、どちらの説明も中途半端になります。

商品の呼び方も、混ぜない

同じ打ち合わせで、もう一つ指摘がありました。同じ製品を指す言葉が、ページによってバラバラだったのです。

製品名として使う表記と、一般的な呼び方が混ざっていました。社内では通じます。読み手には通じません。

これは、うちの会社でも起きます。「サイト」「ホームページ」「ウェブ」を混ぜて書いている資料が今もあります。書いた本人は同じものを指しているつもりでも、読んだ人は「別のサービスの話かな」と考えます。

呼び方は、1つの商品につき1つに決めてください。決めたら、一覧にして社内に配ってください。これは今日できます。

変える前と、変えた後

変える前

  • 1ページの主役は、商品A・B・Cの全部
  • B・Cも同じページに混ぜて説明する
  • 商品の呼び方はページごとにバラバラ
  • 問い合わせは多いが、噛み合わない

変えた後

  • 1ページの主役は、商品Aだけ
  • B・Cは小さな入口だけ置き、専用ページで思いきり説明する
  • 商品の呼び方は、1商品につき1つに固定する
  • 問い合わせは減ることもあるが、話が早い

問い合わせの数が減っても、噛み合う数が増えれば、社長の時間は増えます。 中小企業にとって、社長の半日は広告費より高い資源です。

今日からできる一歩

自社のホームページのトップページを開いて、書いてある「できること」を紙に書き出してください。

そして、その横に「どの商品の話か」を書いてください。

2つ以上の商品名が並んだら、そのページは混ざっています。主役を1つ決めて、残りは専用ページに送ってください。

作り直しは要りません。並べ替えと、リンク1本です。

ZohoのAIが、すべての入口になる。ただし日本からは、まだ使えない

ZohoのAIが、すべての入口になる。ただし日本からは、まだ使えない

9月23日、Zohoが「Zia Chat(ジア・チャット)」というものを発表しました。ひとことで言うと、Zohoのアプリをひとつも開かずに、AIに話しかけるだけで仕事が進む、という入口です。

おもしろい発表でした。ただ、先に結論を書いておきます。

日本の会社は、まだ使えません。

何が発表されたのか

これまでZohoを使う人は、画面を渡り歩いていました。営業の話ならCRM、請求ならBooks、問い合わせならDesk。どこに何があるかを覚えているのが、使いこなしている人、ということになっていた。

Zia Chatは、その画面を全部すっ飛ばします。

「先月の売上を取引先別に出して」「この問い合わせに返事の下書きを作って」と話しかけると、45以上あるZohoのアプリを横断して、調べたり、書いたり、記録を更新したりする。表やグラフ、資料の形にして返すこともできる。

発表の場で、創業者のスリダー・ベンブー氏はこう言っています。

インターフェースの危機がある。人は、正しい文脈とデータを探すことに時間を使いすぎている(拙訳)

画面を覚えることは、本来の仕事ではない。その通りだと思います。

中小企業にとって大きいのは、もう2つあります。ひとつは、AIが出した答えのもとになった記録まで、さかのぼって確かめられること。もうひとつは、Zia Chatが読んだ業務データをZohoのAIの学習には使わないと明言していることです。

ここで、冷や水です

使えるのは、インドと米国のデータセンターだけ

Zohoの公式ページに、こう書いてあります。Zia Chatが使えるのは、現時点でインドと米国のデータセンター。

Zohoは、国や地域ごとにデータセンターを分けて運営しています。日本のお客様のデータは、日本のデータセンターに置かれているのが一般的です。

公式が挙げているのは、インドと米国の2つだけ。日本のデータセンターは、いまのところ入っていません。管理画面を開いても、この機能は出てきません。

そして、英語だけ。料金も未定

項目 現時点の状況
使える地域 インドと米国のデータセンターのみ
言語 英語のみ(画面も、話しかける言葉も)
料金 早期アクセスの間は無料。正式版の価格は未発表
AIの中身 自社で契約したOpenAIの鍵を持ち込む方式。他社モデルは今後対応予定

「早期アクセス」というのは、要するにお試し段階です。日本語で使えるのか、日本のデータセンターに来るのはいつか、正式版はいくらか。いちばん知りたいところが、まだ何も決まっていません。

なので、今の時点で社内に「Zohoが新しいAIを出したらしい」と話を通すのは、少し早いです。動かせないものの期待だけが先に立つと、あとで面倒になります。

同じ日に、業種専用のアプリを7本出している

この日の発表は、もうひとつありました。Zohoが業種ごとの専用アプリを7本出した、という話です。

小売店、自動車の販売店、融資の審査、診療の記録、学校、不動産、そして飲食店のPOS(レジ)。

ただ、これも日本の話ではありません。学校向けはまずインドから。診療記録のアプリはインドの医療制度に合わせて作られている。飲食店のPOSは「年間の請求額が120万ルピー以下なら無料」という、インド市場を狙った値付けです。

では日本には関係ないかというと、そうでもない、と私は思っています。

ここに出ているのは製品の中身ではなく、Zohoがこれからどっちへ歩くのか、という方向だからです。

どの業種でも使える汎用の箱を安く売る会社から、業種ごとの中身まで自分で作る会社へ。そして、その全部の入口をAIにまとめる。方向としては、かなりはっきりしています。

この流れは、いずれ日本にも来ます。時期はわかりません。でも来ます。

では、うちは何をしておくのか

いちばん損をする構えは、これです。

「日本で使えるようになってから考える」

理由は単純で、AIは、入っていないデータを読むことができないからです。

話しかけるだけで先月の売上が出てくる、というのは、売上のデータが正しく入っている会社の話です。

商談の経緯が担当者の頭の中にあって、請求書は別のExcelにあって、問い合わせは個人のメールの中にある。この状態の会社にどれだけ賢いAIを入れても、聞いた瞬間に「わかりません」と返ってくるだけです。

私は仕事柄、道具を入れたのに使われていない現場をたくさん見ます。原因はだいたい同じで、道具が悪いのではなく、その手前の流れが決まっていなかった。

AIの時代になっても、ここは変わりません。むしろ、差が開きます。手で探していた頃は、データが汚くても人がなんとかできた。AIに任せると、その「なんとか」が効かなくなるからです。

今日からできる一歩

大げさな準備はいりません。ひとつだけ試してください。

いま使っているZoho(他のCRMでも構いません)を開いて、先月の売上を、取引先別に出してみてください。

数十秒で出るなら、あなたの会社はAIを受け入れる準備ができています。いつ日本に来ても大丈夫です。

出てこないなら、足りないのはAIではありません。その手前です。

海外の発表を追いかけるより、そっちを整えるほうが、たぶん半年早く効きます。


出典:Zoho「Press Releases」(2026年9月23日付 Zia Chat および業種特化SaaSの発表)
Zoho 公式プレスリリース一覧

出典:Zoho「Zia Chat, AI for Frictionless Work」(公式製品ページ。提供データセンター・対応言語・早期アクセスの料金について記載)
Zia Chat 公式ページ

出典:Business Standard「Zoho launches Zia Chat, enters vertical SaaS with seven industry apps」(2026年9月23日)
Business Standard の記事

いいものですよ、は届かない。人が動くのは困っているときだけです

いいものですよ、は届かない。人が動くのは困っているときだけです

先日、付き合いの長い制作会社の社長と飲んだときのことです。

仕事の話になって、最近の道具の使い方を聞いてみました。驚いたのは、毎日の転記作業がまるごと消えるような連携の仕組みを、一つも使っていなかったことです。

私は思わず、いかに便利かを話し始めました。

その社長の反応は、こうでした。

「へえ。まあ、今ので足りてるんですよ」

良いものを説明しても、人は動かない

帰り道に考えました。私の説明が下手だったのか。違います。その社長は、困っていなかったのです。

転記作業は毎日ある。でも、それは20年前からある。もう手が覚えている。だから「手間」として認識されていない。存在しない痛みに、薬は売れません。

これは相手が鈍いという話ではありません。私も同じです。人は、困っていないことには一円も出しません。

「いいものだから売れる」という思い込み

私は2002年に会社をクビになって、翌年に独立しました。月商8万円で、病院からは入院を勧められる状態でした。

そのとき何をしていたか。自分ができることの説明です。ホームページが作れます、こういう技術があります、安くできます。全部、自分の話です。

1件も決まりませんでした。2週間、ゼロです。

変わったのは、相手の困りごとから話を始めたときでした。840円のFAX代で16社に送って、64万円の受注になりました。文面に書いたのは、自分ができることではありません。相手が今、困っているであろうことです。

困っていない人に売ると、売ったあとも苦しい

もう一つ、大事なことがあります。

困っていない人に、押し切って売ったとします。すると、こうなります。

  • 使われない
  • 成果が出ない
  • 「あれ、どうなってるの」と言われる
  • 説明と対応に時間を取られる

売上は立ちますが、利益は残りません。困っていない人への販売は、売ったあとにコストが来ます。

逆に、困っている人に売ると、勝手に使ってくれます。こちらが言わなくても成果が出ます。紹介もしてくれます。同じ売上でも、あとの手間がまるで違います。

変える前と、変えた後

変える前

  • 最初の一言は「うちはこういうことができます」
  • 話す順番は、自社の良さが先、相手の状況は後
  • 相手の困りごとが出てこないときも、それでも良さを説明する

変えた後

  • 最初の一言は「いま、いちばん手間がかかっているのは何ですか」
  • 話す順番は、相手の困りごとが先、自社の良さは後
  • 相手の困りごとが出てこないときは、その日は売らない。困ったときに思い出してもらう位置に置く

「その日は売らない」が難しいところです。目の前に相手がいると、何か売りたくなります。私も毎回そう思います。

でも、困っていない人に費やした30分は、困っている人に会う30分を奪っています。

困りごとは、聞かないと出てこない

もう一つ、現場でよくあることです。

社長本人が、自分の困りごとを言葉にできていないことがあります。「特に困っていません」と言いながら、話を聞いていくと、毎月3日間かけて手で集計している作業が出てきたりします。本人にとっては当たり前なので、困りごとに数えていないのです。

だから、聞き方はこうします。

  1. 「いちばん時間がかかっている仕事は何ですか」
  2. 「それは月に何時間くらいですか」
  3. 「それがなくなったら、その時間で何をしますか」

3番目まで聞くと、相手の中で初めて「損している」という形になります。困りごとは、発見された瞬間に困りごとになります。

ここまで来て初めて、こちらの話をします。順番を逆にすると、同じ話がただの売り込みになります。

今日からできる一歩

次の商談で、最初の5分、自分の会社の話を一切しないと決めてください。

代わりに「いま、いちばん手間がかかっているのは何ですか」と聞いて、出てきた答えをメモしてください。出てこなかったら、月に何時間かかるかまで聞いてください。

それだけです。資料も、新しい商品も、値下げも要りません。話し始める場所を変えるだけです。

GeminiからZoho CRMに聞ける機能。ただし日本ではまだ使えません

GeminiからZoho CRMに聞ける機能。ただし日本ではまだ使えません

先に結論を書きます。この機能、日本のZohoアカウントではまだ使えません。

それでも紹介しておきたいのは、向かっている方向がはっきりしているからです。

何が発表されたのか

2026年8月25日、ZohoがGoogle GeminiのConnected Apps対応を発表しました。

Geminiから直接、Zohoの業務データを参照できるようになる、というものです。対象はZoho CRM、Zoho Mail、Bigin、Zoho Desk、Zoho Projects。

設定はGemini側で、設定 → パーソナル インテリジェンス → アプリ連携 から、使いたいZohoアプリを認証します。

Zohoが例として挙げている使い方がこちらです。

今月クローズ予定の進行中の商談を要約して。長期間動いていない商談にはフラグを付けて。
1週間以上連絡していない見込み客を教えて。

ここが肝心です

公式ブログには、こう書かれています。

現在、インドのデータセンターの組織でご利用いただけます。他のZohoデータセンターへの対応は近日中に提供予定です

日本のデータセンターは名前が出てきません。Geminiのアプリ連携を開いてもZoho CRMは表示されない可能性が高いということです。

見つからなくても設定を間違えているわけではないので、探し回らないでください。他のデータセンターの対応時期も、現時点では公表されていません。

それでも書いておきたい理由

中小企業でCRMが根づかない最大の理由は、機能ではないと思っています。

社員がCRMの画面を開かないことです。

入力してもらえない、見てもらえない。だから情報が溜まらない。溜まらないから見る価値がない。この輪から抜けられない会社を、私は何社も見てきました。

この発表が面白いのは、そこを別の角度から外そうとしている点です。CRMを開かせるのではなく、普段使っているAIに聞けば答えが返ってくる状態にする。

経営者にとっては、これはかなり現実的です。「システムの使い方を覚えてください」ではなく、「聞けば教えてくれます」のほうが、導入のハードルは明らかに低い。

日本で待っているあいだにできること

ひとつだけ言えるのは、この手の機能が使えるようになったとき、恩恵を受けるのは中身が整っている会社だけだということです。

AIは、入っていないデータには答えられません。商談の進捗が更新されていなければ「停滞している商談」は出てこないし、問い合わせ内容が記録されていなければ要約のしようがありません。

つまり待ち時間にやるべきことは、AIの勉強ではなく、地味なほうです。

  • 商談のステータスが実態と合っているか
  • 担当者ごとの入力ルールが揃っているか
  • 放置されたままのレコードがどれくらいあるか

AIが賢くなるほど、元のデータの粗さがそのまま結果に出ます。準備期間だと思って、ここを見直しておく価値はあると思います。

提供が日本に来たら、あらためて実際の画面でご紹介します。


出典:Zoho「Zoho Connected Apps for Google Gemini」(2026年8月25日)
公式ブログを見る

2026-10-05 今週の動向メモ|補助金の対象ツール拡大

2026-10-05 今週の動向メモ|補助金の対象ツール拡大

毎週の情報整理メモです。

この1週間(9月28日〜10月4日)で、中小企業の経営に実際に効く動きは多くなかった。ただし、期限と金額に直結するものが1件ある。そこから順に並べる。

1. 補助金:次の締切は10月30日。対象ツールも増えた

何が変わったか

「デジタル化・AI導入補助金2026」(旧IT導入補助金)の次回締切は、2026年10月30日(金)17:00である。交付決定は12月10日(木)予定、事業の実施期間は交付決定後から2027年5月31日(月)17:00までの予定となっている。

あわせて9月30日、ゾーホージャパンが「Zoho Mail」(プレミアムプラン)「Zoho Connect」(アルティメットプラン)「Zoho People」(プレミアムプラン)の3製品を、同補助金の通常枠の対象ツールとして登録したと発表した。

補助の条件は次のとおりである。

  • 補助率はクラウド利用料の2分の1以内。所定の賃金要件を満たす場合は3分の2以内
  • 対象は最大2年分
  • 補助額は導入する業務プロセス数で決まる。1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下
  • 年間契約プランのみが対象
  • Zoho Mailは単体では申請できない。他の対象ツールとの組み合わせが必要

そしてもっとも事故が起きやすい一点。交付決定前に契約・発注・支払いを行った場合、補助の対象にならない。「先に導入して、後から申請する」は通らない。

なぜ重要か

10月30日まで、実質3週間強しかない。しかも発注は交付決定(12月10日予定)を待つ必要があるため、「年内に導入して年明けから使い始める」という段取りを今から組まないと、1月以降の予算に流れてしまう。

もう一つ。10月1日から最低賃金が改定された。賃上げを予定している会社なら、補助率が2分の1ではなく3分の2になる可能性がある。自己負担が3分の1で済むかどうかは、提案の通りやすさを大きく変える。賃金要件の詳細は公募要領で確認が必要だ。

なお、4次締切分の交付決定日は10月7日とする情報があるが、事務局の公式スケジュールページには確定した公募回のみが掲載されており、この日付は確認できなかった(二次情報。未確認)。

打ち手

  1. 既存の顧客・取引先のうち、年間契約のクラウドを使っていて、かつ賃上げの予定がある会社を書き出す
  2. その会社に「10月30日締切」「発注は交付決定後」の2点だけ先に伝える。制度の説明は後でよい
  3. 見積と申請書類の着手日を、今週のうちにカレンダーに入れる

補助金の締切・金額・要件は変更されることがあるため、必ず公式サイトでご確認ください。公式スケジュール:https://it-shien.smrj.go.jp/schedule/

2. Googleのスパム対策が進行中。順位が動いた心当たりがあるなら、今が見るとき

何が変わったか

Googleは9月24日に「September 2026 spam update」の展開を開始した。全世界・全言語が対象で、完了までに最大2週間かかるとしている。10月5日時点で、Google公式のランキング更新履歴に完了の記載はない。まだ動いている最中とみられる。

なぜ重要か

スパムアップデートは、コアアップデートと違って「検索の評価軸が変わる」ものではない。Googleのスパムに関する方針に反する手法を取っているサイトを下げるものである。

問題は、自社で心当たりがなくても影響を受ける場合があることだ。たとえば過去に業者に依頼した被リンク、大量生成した薄いページ、閉鎖したサイトから引き継いだドメイン。こうした「昔の施策」が残っていると、ここで出てくる。

打ち手

9月24日を境に、自然検索からの流入が落ちていないかを見る。落ちていた場合、まず疑うのは順位計測ツールではなくSearch Consoleの実データである。そして原因を探す前に、いま出している広告や問い合わせ経路が止まっていないかを確認する。検索が落ちているときに広告まで止まっていると、売上への打撃が二重になる。

3. 「AIに引用されること」が、広告商品として売られ始めた

何が変わったか

9月29日、朝日新聞社が生成AI検索時代に向けた新しい広告メニュー「AIO/GEOタイアップ」の提供を開始した。asahi.comで記事を配信し、記事公開の前後でAIによる言及・引用がどう変わったかをレポートするというものだ。

なぜ重要か

これまで検索対策の目標は「順位」だった。それが「AIの回答のなかで名前が出るか」に移りつつある。その変化が、大手メディアの正式な商品として値付けされた。流れが本物になりつつある証拠である。

ただし冷静に見ておきたい。これは広告枠の販売であって、検索の仕様変更ではない。中小企業がこの枠を買えるかというと、現実的には難しい会社が多いだろう。

打ち手

枠を買う話ではなく、無料でできることから手を付けるのが先である。

  • 社名・サービス名の表記を、サイト・SNS・名刺・請求書まで全部そろえる。「株式会社○○」「○○(カタカナ)」が混在していると、AIは同じ会社だと判断しづらい
  • 自社でしか出せない数字(施工実績、対応件数、価格の実例)を、1ページにまとめて公開する
  • 他社の記事の要約ではなく、自社で測った一次情報を書く

地味だが、これは順位対策とAI対策の両方に効く。

4. CRM市場:中小企業向けに、また一社入ってきた

何が変わったか

9月28日、Consilegy合同会社が中小企業向けCRM「Revenue CRM」の正式提供を開始した。価格は月額3,000円/アカウント(税抜)から。名刺を撮れば連絡先ができる、商談を自動で文字起こしして要点と次のアクションを抜き出す、議事録からタスクを作る、といったAI機能を備える。175本の自動化ワークフローと業種別の初期設定が済んだ状態で提供されるという。

なぜ重要か

注目すべきは価格ではない。訴求の軸である。この製品は「CRMのための仕事を減らす」と言っている。入力・設定・運用そのものを敵に置いた。

CRMが使われなくなる理由は、機能が足りないからではない。入力が面倒で、設定が終わらず、現場が触らないからだ。そこを正面から突いてきた会社が出てきたということは、「多機能・低価格」だけでは選ばれなくなるという意味でもある。

打ち手

すでにCRMを入れている会社は、今月の入力率を見てほしい。営業担当が週に何件登録しているか。ゼロに近いなら、ツールを替える前に入力の手間を削る設定から見直すほうが早い。導入を検討中なら、比較表の機能数ではなく「初期設定が済んだ状態で渡してもらえるか」を聞くべきである。

5. 今週は大きな動きがなかったもの

正直に書いておく。Salesforce、HubSpot、kintone、SATORIといった主要なCRM・MAについて、この1週間で経営判断に関わる発表は確認できなかった。価格改定も仕様変更の告知も見当たらない。

Google広告・Meta広告についても同様で、中小企業の運用に直接影響する公式の告知はこの期間には出ていない。


今週やるなら、この3つ

  1. 補助金の候補を書き出す。年間契約のクラウドを使っていて賃上げ予定のある会社を、今週のうちにリスト化する。10月30日17:00締切。発注は交付決定後(12月10日予定)であることを先に伝える
  2. 9月24日以降の自然検索流入を確認する。Search Consoleで、スパムアップデート開始日の前後を比べる。落ちていれば原因を探すより先に、問い合わせ経路が生きているかを見る
  3. 社名・サービス名の表記をそろえる。サイト、SNS、名刺、見積書。費用はかからないが、AIに拾われるかどうかに効く

1と2は期限がある。3は期限がないので、1と2が終わってからでよい。期限のあるほうから手を付ける。これが一番間違いにくい順番である。


出典:

中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 事業スケジュール」
https://it-shien.smrj.go.jp/schedule/

ゾーホージャパン「『Zoho Mail』『Zoho Connect』『Zoho People』が『デジタル化・AI導入補助金2026』の対象ツールに登録」(2026年9月30日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000140.000101685.html

Google「Google Search ranking updates」(September 2026 spam update・2026年9月24日開始)
https://status.search.google.com/products/rGHU1u87FJnkP6W2GwMi/history

GameBusiness.jp「朝日新聞社、生成AI検索時代の新広告メニュー『AIO/GEOタイアップ』を提供開始」(2026年9月29日)
https://www.gamebusiness.jp/article/2026/09/29/28161.html

Consilegy合同会社「中小企業向けCRM『Revenue CRM』正式提供開始」(2026年9月28日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000191457.html

厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(2026年10月1日以降順次発効)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

1件いくらまで払えるか。それを決める前に広告を出すな

1件いくらまで払えるか。それを決める前に広告を出すな

今日は、電卓を1つ用意して読んでください。3行の計算をします。

「広告、やったほうがいいですか」

この質問を、毎月のように受けます。

私の答えはいつも同じです。「1件の注文で、いくらまで払えますか」

たいてい、答えが返ってきません。「やってみないと分からない」と言われます。

逆です。やってみる前に決めるものです。これが決まっていないと、広告が高いのか安いのかを判断できません。判断できないから、1か月で止めるか、何も分からないまま垂れ流すかのどちらかになります。

計算は、3行で終わります

先日、印刷物のデザインを請け負う会社から相談を受けました。検索からのアクセスが落ちて、「サイトを作り直すしかないのか」で止まっていた会社です。

最初にやったのは、この3行の計算でした。

  1. 注文1件で、いくら売れるか(平均の注文金額)
  2. そのうち、いくらが手元に残るか(粗利)
  3. 手元に残るお金の、何割までなら広告に出せるか

この会社は、1件の注文でおよそ10万円が手元に残る商売でした。その3割までなら出せる、と決めました。

すると、1件の注文を取るのに3万円台まで払えると出ます。

この数字が出た瞬間、話が変わりました。クリック1回に300円かかっても、100回クリックされて1件注文が取れれば、3万円です。十分に戦えます。

逆に、1件の注文で手元に5,000円しか残らない商売なら、1件を取るのに3万円は絶対に払えません。同じ「クリック300円」でも、答えが正反対になります。

高いか安いかは、広告の側では決まりません。自分の商売の側で決まります。

大きい言葉で戦わない

もう一つ決めたことがあります。大きいキーワードを捨てる。

この業界で検索数の多い言葉は、大手が押さえています。資本が違います。そこで勝負しても、クリック単価だけが上がって終わります。

だから、買う気がはっきりしている言葉だけに絞りました。用途、業種、細かい条件。検索する人の数は少ない。でも、そこにいるのは本気の人です。

姉妹サイトで同じやり方を試して、1件あたりの獲得単価を1万円前後まで下げた実績があります。だから自信を持って提案できました。

ここで、私自身の話を

実は私、この「絞る」がずっと苦手でした。

毎朝、だらだらとYouTubeを見ます。その中で気づいたことがあります。私が好きで見ているチャンネルは、登録者が万単位。一方、登録者が十万単位のチャンネルは、もっと大きいテーマを扱っていて、正直あまり面白くない。

つまり私は、「大きい市場に行かないと不安だ」と思いすぎていた。市場と一緒に落ちるのはごめんだ、と。だからテーマや業界を絞るのを、極端に嫌がってきました。

でも、好きなチャンネルを見ていて思ったのです。登録者数など、どうでもいい。成り立っていればいい。ファンがいればいい。

52歳になって、やっとここに来ました。自分の会社も、絞っていいのではないか。中小企業向け、法人向け、特定の道具。そのほうが、楽しそうだし、かっこいい。

広告のキーワードの話と、同じことです。大きいところで名前を知られるより、小さいところで確実に選ばれるほうがいい。

作り直しは、あとでいい

この会社には「サイトの全面作り直しは、来年の夏でいいです」と伝えました。

ただし1つだけ、先に直してもらうことにしました。スマホで見たときのページです。このサイトはパソコン用とスマホ用でURLが分かれていて、10年以上前の作りのままでした。

広告を出しても、受け皿がこれでは落ちます。クリックしてくれた人が、読みにくい画面にたどり着いて帰ってしまう。広告費を払って、帰ってもらうことになります。

だから順番はこうです。

  1. 1件いくらまで払えるかを決める
  2. 広告の受け皿になるページだけ、スマホ対応にする
  3. 買う気のある言葉に絞って、少額から出す
  4. 数字を見て増やすか減らすかを決める
  5. 成果が出てから、本格的な作り直しを考える

作り直しは、いちばん高い実験です。いちばん安い実験から始めます。

今日からできる一歩

電卓を出して、3行だけ計算してください。

注文1件の平均金額 → そのうち手元に残る額 → その3割

出てきた数字が、あなたの会社が1件の注文に払える上限です。

この数字を、広告の管理画面のメモ欄でも、手帳の表紙でもいいので書いておいてください。次に「この広告、高くないか」と思ったとき、迷わなくなります。

売上は、最後にクリックされた場所に全部乗る

売上は、最後にクリックされた場所に全部乗る

管理画面を開くと、お客さんが来た経路ごとの売上が並んでいます。あの表の読み方を、今日は一つだけお伝えします。

「このメールは千円台、この広告は数円です」

ある会社の分析資料に、こういう表が載っていました。

売上を、お客さんが来た経路ごとに割った数字です。メールから来た人は1件あたり千円台。ある広告から来た人は、数円。

400倍の差です。

この表を見た社長は、当然こう考えます。「メールは効いている。この広告は無駄だ。予算を移そう」

私は、そうではないと返信しました。この2つの数字は、そもそも測っている場所が違うからです。

売上は、最後に触った経路のものになる

アクセス解析や広告の管理画面の多くは、最後にクリックされた経路に、売上を全部乗せます。

たとえば、こういう流れを想像してください。

  1. 月曜。広告を見て、はじめてそのサイトを知る。会員登録をする
  2. 火曜から木曜。何もしない
  3. 翌週。届いたメールを開いて、リンクをクリックして注文する

この注文は、どこの手柄になるでしょうか。

メールです。最後にクリックされたのがメールだからです。最初に連れてきた広告の成績は、ゼロのまま。

これが、千円台と数円の正体です。広告が無駄だったのではなく、広告の手柄が全部メールに移っているだけです。

検討期間が長いほど、この歪みは大きくなる

この会社の数字を見ると、こうでした。

  • 購入の8割近くは、登録した日ではなく、あとから来訪し直したときに起きている
  • 登録から最初の注文まで、中央値で9日

9日空くということは、ほぼ全部の注文が「最後の経路」に吸い込まれるということです。

法人向けの商売は、だいたいこうなります。その場で決まりません。見て、社内で相談して、比べて、何日かたってから動く。検討期間が長い商売ほど、入口の広告は数字の上で不当に安く見えます。

そして、いちばん多くの新規を連れてきている入口が、いちばん「効いていない」ように見える。止めたくなるのも当然です。

「直接来た」の山は、たいてい誰かの手柄

もう一つ、見分け方があります。

解析画面に「直接流入」とか「ノーリファラー」という項目があります。ブックマークやURLの直打ち、アプリの中から来た人がここに入ります。この山が大きい会社は、要注意です。

その山の中身は、たいてい「前に何かで知って、今回は自分で来た人」です。つまり、誰かの手柄が名無しになって溜まっています。

ここが膨らんでいるのに、広告の数字が小さい。よくある形です。

では、どうするのか

1. 入口と出口を、別の物差しで見る

入口の広告は「何件の新規を連れてきたか」で見ます。売上では見ません。出口のメールやリピート施策は「売上」で見ます。

同じ物差しで並べると、必ず入口が負けます。並べないことです。

2. 最初の接点を、自分の台帳に残す

お客さんが登録したとき、または最初に問い合わせたときに、「どこから来たか」を顧客台帳に1項目足します。これで、9日後に買った人の売上を、最初の入口に戻せるようになります。

アクセス解析の数字ではこれができません。個人単位では追えませんし、データの保存期間にも限りがあります。自社の台帳に残すしかありません。

私の失敗談

ずっと前、自社のセミナー集客で同じことをやりました。

申込フォームの直前のページだけを見て、「このページからの申込が多い」「このページは無駄だ」と判断していました。無駄だと思って消したページが、実は最初に見つけてもらうための入口でした。消した月から、申込そのものが減りました。

最後のページだけを見ていたのです。出口の手柄を数えて、入口を削っていました。

今日からできる一歩

管理画面を開いて、「直接流入」の割合を見てください。

これが全体の3割を超えていたら、あなたの会社の広告やSNSは、数字の上で実力より安く見えています。その状態で予算を動かさないでください。

まず、最初の接点を台帳に残す。判断は、そのあとです。