担当者は「良いですね」と言っている。感触も悪くない。なのに、決まらない。
中小企業の社長なら、一度は経験があるはずです。
アウトレットで、私は何も買わなかった
先日、家族で関西のアウトレットに行きました。
結論から言うと、何も買いませんでした。
安いのに、買う理由がなかった
安いことは安い。でも「今ここで買う理由」が見つからなかった。売れ残りが安く並んでいるのかと思っていたら、そうではなく、アウトレット用に企画された一段下のものが安く並んでいる。店によっては量販店と同じ値段でした。
送料を払ってでもネットでいい、と思ってしまった
それで私はこう思いました。送料を払ってでも、ネットで買えばいい。
同じ日、ゴルフシューズは血眼になって探して即決した
ところが同じ日の朝、私は別の買い物をしていました。ナイキのゴルフシューズです。26.5センチ、フリーというモデル。血眼になって探して、見つけた瞬間に比較して、即、買いました。
値段はアウトレットの商品より高い。それでも一瞬で決めました。
違いは値段ではなかった
このシューズの良さを、私はもう知っていたからです。履いたときの感じも、ラウンド後の足の楽さも、全部わかっている。だから「またあの体験がしたい」とだけ思って、探して、買った。
「またあの体験がしたい」だけで人は動く
安いから買ったのではない。同じ体験をもう一度したかったから買った。
自分の見積書を見返して、青くなった
その帰り道、私は自分の見積書のことを考えて、少し青くなりました。
私は毎月、お客さまに見積書を出します。会社の紹介があり、課題の整理があり、やることが並び、金額が入っている。よくできた見積書だと思います。
でも、そこに「今、ここで注文しなければならない理由」は書いてあるか。
ありませんでした。
正直に言えば、私はずっと「良い提案をすれば伝わる」と思っていました。だから提案書を厚くしてきた。項目を増やし、根拠を足し、比較表を作った。それでも返事が来ないときは、最後は金額を下げていた。
順番が逆でした。
提案書ではなく「更新画面」を見せたら、決裁が動いた
先日、ある金属加工の会社との商談で、それがはっきりしました。
止まっていた理由は金額ではなかった
提案書も見積書も出していました。内容にも自信があった。でも決裁が止まっていた。
このとき、私は金額を下げませんでした。代わりに作ったのは、公開したあとに社内の人が触る「更新画面」のイメージです。ここをこう入力すると、こう表示されます、という絵です。
見せた瞬間、担当の方の反応が変わりました。
「これはすごくいい」
「私以外が作業する場合も分かりやすい」
「導入予定の日が決まっているなら、今から仕込んでおけますね」
使っている自分が見えた瞬間、話が前に進む
止まっていた本当の理由は、金額ではなかったのです。「自分以外の人でもこれを回せるのか」という不安でした。誰も口に出していなかった不安です。
更新画面のイメージは、その不安に直接答えました。そして担当の方は、使っている自分を想像し始めた。
そこから話は一気に前に進みました。決裁は「多分このまま通る」に変わり、しかもこちらが売り込んでもいない別の相談まで、先方から出てきました。
なぜ、先に値引きをしてはいけないのか
順序が大事です。
もし私が先に値引きをしていたら、どうなっていたか。おそらく金額は通ったでしょう。でも不安は残ったままです。そして「安くしてくれる会社」という記憶だけが残る。次も値引きから始まります。
「買わない理由」を潰す前に、「使っている自分」を見せる。これが順序です。
| ビフォー(現状の問題) | 実施(打った手) | アフター(結果) | なぜその順序にしたか |
|---|---|---|---|
| 提案書も見積書も出したのに、決裁が止まっていた。本当に気にされていたのは金額ではなく「自分以外の人でも更新できるか」だった | 提案書の説明を厚くするのではなく、公開後に社内の人が触る更新画面のイメージを作って見せた | 「これはすごくいい」「私以外が作業する場合も分かりやすい」。決裁は「多分このまま通る」に。売り込んでいない別の相談も先方から出てきた | 止まっていた理由が金額ではなかったから、値引きに行かなかった。逆順にすると値引き合戦になり、決まっても利益が残らない |
私自身、2003年に横浜で独立して月商8万円、2週間で1件も受注できませんでした。そこから10日間、840円の投資で16社・64万円の受注をつくりました。あのとき効いたのも、値引きでも根性でもありません。相手が「これなら自分にもできそうだ」と思える形にして見せたことでした。
今日からできる一歩:見積書に1ページ足す
では、今日から何をするか。
ひとつだけ提案します。見積書に1ページ足してください。
足すのは、価格の内訳でも実績一覧でもありません。「導入したあと、お客さまの会社の誰が、どの画面で、何をするか」の絵です。手描きでもかまいません。
パンフレットではなく、使っている場面です。買う前の説明ではなく、買ったあとの日常です。
それを見せたとき、相手の目が動いたら、そこが買う理由が生まれた瞬間です。
まとめ:煽らなくていい。想像してもらえればいい
私は「買わないと損しますよ」と脅す売り方が好きではありません。今もそう思っています。ただ、実際にそう言われないと動けない人がいることも事実です。
だから私はこう整理することにしました。主軸は「良い体験を想像させること」。脅しは最後の一押しにすぎない。
順番を間違えなければ、脅す必要はほとんどありません。