担当者は「良いですね」と言っている。感触も悪くない。なのに、決まらない。
中小企業の社長なら、一度は経験があるはずです。
私は「厚くする」を10年やってきた
私はこの状態を、長いこと「押しが足りない」せいだと思っていました。だから提案書を厚くしてきました。
項目を増やす、根拠を足す、比較表を作る
項目を増やし、根拠を足し、他社との比較表を作る。もっと丁寧に説明すれば伝わるはずだ、と思っていました。
それでも動かないときは、金額を下げていた
これを10年以上やってきました。そして最後はいつも値引きで決まる。決まったのに、なぜか嬉しくない。
提案書の主役を入れ替えた
先日、ある金属加工の会社との商談で、そのやり方が間違っていたことがはっきりしました。
提案書は出していました。見積書も出していました。担当の方の評価も悪くない。でも決裁が止まっていました。
いつもの私なら、ここで説明を足すか、金額を下げます。
見せたのは完成品ではなく「更新画面」
今回はやりませんでした。代わりに作ったのは、「公開したあと、社内の人が触る更新画面のイメージ」です。
ここに写真を入れると、ここにこう出ます。空欄があると自動で詰まります。下書きで保存できます。公開日を先に決めて予約もできます——そういう、地味な絵です。
見せた瞬間、反応が変わりました。
「これはすごくいい」
「更新も分かりやすい項目で分けていただいている」
「私以外が作業する場合も分かりやすい」
「導入予定の日が決まっているなら、今から仕込んでおけますね」
相手が言葉にしていなかった不安に、直接あたった
ここで私はやっと理解しました。
止まっていた理由は金額ではなかった。「自分以外の人でも、これを回せるのか」という不安でした。
そしてこの不安は、一度も口に出されていませんでした。
考えてみれば当然です。担当の方の立場からすると、社内で通したあとに困るのは自分です。作って終わりではない。運用が始まってからのほうが長い。その長い時間を想像したときに不安があるなら、決裁の判子は押せません。
提案書の主役は「これから作るもの」でした。相手が知りたかったのは「使っているところ」でした。
主役を入れ替えたら、話が動きました。決裁は「多分このまま通る」に変わり、しかもこちらが売り込んでいない別の相談まで、先方から自然に出てきました。
なぜ金額を先に下げてはいけないのか
もし私が先に金額を下げていたら、どうなっていたか。おそらく通ったでしょう。でも不安は残ったままです。そして「安くしてくれる会社」という記憶だけが残る。次の案件も値引きから始まります。
「買わない理由」を潰す前に、「使っている自分」を見せる。この順序を守るだけで、値引きの回数は減ります。
もうひとつの例:設定を直す前に運用を直した
同じ順序の話を、もう一件。
ある制作会社で、問い合わせの自動振り分けが動かないという相談がありました。担当の方は、設定画面の条件を何度も直していました。
私が最初にやったのは、条件を直すことではありません。画面を見せてもらうことでした。
すると、手前に原因がありました。全部のメールを控えに入れて転送する運用になっていたため、そもそも条件が成立しない状態だったのです。設定画面をいくら直しても、絶対に動きません。
そこで提案したのは、受信するアドレスを一本にまとめることでした。仕組みの前に、運用の形を直す。
「すっきりしました」と言っていただきました。
ここでも順序です。基本の形を先に作り、細かい例外は後。逆にやると、直しても直しても動かない状態が続きます。
私自身、2003年に横浜で独立して月商8万円、2週間で1件も受注できませんでした。そこから10日間、840円の投資で16社・64万円の受注をつくりました。あのとき効いたのも、立派な提案書ではありません。相手が「これなら自分にもできそうだ」と思える形にして見せたことでした。
今日からできる一歩:提案書の1ページ目を差し替える
提案書の1ページ目を差し替えてください。
今そこにあるのが会社紹介なら、外します。代わりに置くのは、導入したあとの一場面です。誰が、どの画面で、何をするか。手描きの絵でかまいません。
これだけで、相手の頭の中で提案書の主役が入れ替わります。
説明を厚くするのは、そのあとです。




